昨日の三ツ星レストラン、メゾン・ピックで頂いたエルミタージュの赤1996年の
余韻が残ったまま、シャーヴの蔵を訪問。
ローヌの至宝と言えるエルミタージュの真髄に迫った。
ジャン・ルイ・シャーヴでは今、グランヴァンといえるドメーヌ物のジャン・ルイ・
シャーヴと、買いブドウからのネゴシアン物のシャーヴ・セレクションがある。
最近の若者のワイン離れとローヌワイン発展のために、当主ジャン・ルイが
工業的でないワインをもっと気軽に楽しんでほしいという考えからシャーヴ・
セレクションはスタートしており、ドメーヌ物から漏れたブドウがこちらにも
回されるという非常にお買い得なワインではあるが、そこには当主ジャン・
ルイの一切の揺るぎのない情熱と愛情が注がれた素晴らしいワイン達で
あった。

最優良年に造られる、キュヴェ・カトランはほとんど市場に出回らない幻のワインの
為、通常この生産者のフラッグシップはエルミタージュとなる。
まずは樽からエルミタージュの赤の5区画の畑ごとの味わいの違いを比較。
実は彼のエルミタージュは2009年ビンテージから前に定冠詞のついた
レルミタージュという呼称に変わっっている。その事について輸入元を介して
問い合わせたところ、エルミタージュというワインは複雑な土壌環境に由来する
複数の区画のブレンド、調和によって生まれるものであるという考えに達しために
そのような名前に変えたのだという。
英語のTHEに相当するこの定冠詞を説明するのは私には適役ではないが、
ちょっとその説明では納得ができなかったため、2年前に彼が来日した時も直接同じ
質問をしたのだが結局同じ答えが帰ってきた。
「エルミタージュの呼称は実は4種類ある、Ermitage、l’Ermitage、
Hermitage、l’Hermitage」だ
古くはエルミタージュの小区画畑にもあるようにErmitageと名乗っていたが
その輸出窓口であるボルドーを経由する際に、Bordeaux-Ermitage
(ボルドー・エルミタージュ)としてブレンドして販売された経緯があり、
怒った生産者が区別するために今日一般的となった「H」が付けられるように
なったという。
骨格を与える砂質、粘土質土壌の「ペレア」、礫岩土壌が主体の繊細さの
「ボーム」、タンニンとスパイシーさを与える「エルミット」、小石土壌で凝縮感を
与える「メアル」そしてストラクチュアとエスプリを与える「デサール」の
ブレンド。
それぞれの区画のワインを彼は試飲させるがそれに対して彼は答えを求めない、
言い換えるとそれはあまり意味のないことだった。彼の造るエルミタージュは
レルミタージュなのである。

エルミタージュの白は2週間前に樽からタンクに移したという2014年試飲。
畑には中には樹齢100年を超えるというマルサンヌとルーサンヌが混植されている。
「私たちのエルミタージュにとってブドウ品種は重要ではない、重要なのは畑」
(よって正確な品種構成はわからないという。)
そしてその後、熟成した1992年(もちろん瓶詰め済み)を試飲。
オレンジの果皮、セメダインのような香り。
ほのかに甘味を感じ、ハチミツのようなトロリとした舌触り。オイリーでボディの
しっかりとした味わい。
「最近は酸が非常にもてはやされているが、エルミタージュの白にとって酸は
重要ではない、テクスチュアが重要である」
「92年は非常にクラシックな年だった。エルミタージュの白を理解するには
知識と忍耐が必要である、ガストロミ―な最高の食事に合わせられるべきで
ある。また、日本へ行った時に食べた天ぷらとは最高のマリアージュだった」
若い内は樽の香りがあってもそれが溶け込んでしまえば、香り自体が
それほど強くなく、日本酒で言う味吟醸みたいな印象でまさに彼の言うように
理解しずらかったのだが、なるほどと合点が行きその他にも一言一言が実に
興味のある内容だった。

当主ジャン・ルイは柔らかい物腰ではあるが時折みせる鋭い眼光の先にある、
強い意志を感じた。それはエルミタージュ最高の作り手としての重責と
6世紀つづく伝統ある蔵を守り続ける確固たる信念からである。
今回のフランスの視察で最も印象的な生産者訪問となった。
ジャン・ルイ・シャーヴ